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城詰め
廃墟と少女
まるで不法侵入者のように(城門から入ろうとすると、止められるかもしれないと思ったらしい)現われた王2人は、トパーズに向かう本体を後方に残し、単身エルメント城に来たらしい。ちなみに、ウェインの許可は取っていない。
このことを聞いて、パンタリオンは安全が確保されていないから、と戻るように説得しようとしたが、無駄だった。
二人の言い分は「安全確保がなされていないから来た」とのことで、「僧侶は戦場で忙しいですし」との言葉も、パンタリオンはついでに頂戴してしまった。
もう仕方がないと、それに、トリスタンの国王といえば剣技と魔法に優れた武人で、ムーンパレスの現女王は希代の精霊使いと言われている。優れた精霊使いは、死者と対話でき、その魂を浄化できるのだというのだから、対不死者にこれほど心強い用心棒はいないだおろう。
パンタリオンは現実主義者なので、どうしようもないことをいつまでも考えることはしないのだ。
使えるものは、何でも使え。ただし自分に危険が及ばぬ限り。
という自らの方針にしがたい、パンタリオンはさっそく城内の探索まで範囲を広げるべく、中庭を確認しながら城の正面入り口へと向かうことにした。そこで、エルメント城の簡単な構造を説明してから、探索を始めようというのである。
「トリスタンの国王陛下が女性だっていうのは、風の噂で聞いていましたが」
――まさか実物を拝める日が来ようとは。
少し丈の伸びすぎた中庭を歩く姿を横目で見ると、武装しているが、華奢な、そして丸みを帯びた体型は確かに女性のものである。だが、それは、ジュノーンが女性と知っていれば分ることであって、もし、彼女の性別を知らずに対峙すれば、相手はまず間違いなくジュノーンを男性だと思いこむだろう。
長身のせいもあるが、何よりジュノーンのもつ雰囲気――というよりも、ただ歩いているだけでも伝わってくる気迫。こんな鬼気迫る気配を放つ女性など、滅多にお目にかかれない。
「ほう。その噂を聞いたのは、ハイランドとの同盟締結前か、後か」
月光に白皙を浮かび上がらせながら、ジュノーンが尋ねた。声音には、何かを楽しむような色が混じっている。
「前後、でしょうか。私がハイランドにお世話になることになったのが、ムーンパレスとの同盟締結後、ハイランドがトパーズを牽制しつつ、そちらに面会を求めていた時期です。結局その後すぐに戦端が開かれましたが、私が武将として戦場に引っ張り出される前に、同盟が結ばれたんです。噂を聞いたのは、招集がかかるかもしれない、という時で、個人的な知り合いにトリスタンの情報を聞いていたとき、入手しました」
「下手に気を遣った言葉使いは無用だぞ。一般的に不敬と言われる言葉使いには、部下達のせいで慣れているからな。ところで、知り合いというのは、盗賊仲間か」
――慣れている?
ハテ、と疑問符が浮かんだが、他国の王宮内での言葉遣いなど、パンタリオンが知るはずがない。だが、気にしないというのならば、ありがたく甘えよう、とパンタリオンはあっさり口調をいつもの調子に戻した。
「じゃ、失礼して。情報源ですけどね、そうズバリ言われるとアレですけど、まぁ、そうです」
「盗賊達の情報網も侮れぬな」
「そりゃ違う。盗賊こそ、情報勝負ですよ。商人のように情報を広めることはしませんが、根拠のある情報をしっかり握っている。特に街で金持ち相手に――っと失礼、まぁ、こういうことを稼ぎにしている人間もいるんだと寛容な心で聞いてくださいよ」
「あるところから盗む分にはそれほど気にせん。治安が荒れることと、殺しは別だか」
「よく耳に留めておきます。で、話の続きですが、カモが金持ちほど、戦争だったり市場の動きには敏感でして。相手の動きが読めれば盗みも楽なんで、情報はそういった金持ちねらいの盗賊ほど、積極的にに調べます。下調べの段階でどれだけ情報を握っているか、ってのが、実は盗賊の腕の一つなんですよ」
山賊なんかの商隊を襲う盗賊団なんかはまた別ですけどね、とパンタリオンは付け加えた。
「なるほど。実は私の国には盗賊上がりの武将がいるのだ。こちらとしては、国の表も裏もある程度把握したいので、手近なそいつに聞くのだが、あまり盗賊時代の話をしたがらない。かといって、現状を知りたいと、私自らが城下に降りようとすれば、周囲がうるさい。酒場や盗賊達のたまり場にいこうものならば、『私も行きます』と言いかねない宰相もいてな」
「……行くんですか? 宰相さんが?」
どんな宰相だ。それは。
「行く。あれは一度言い出したら聞かぬ。そしてあれは、自分の容姿が目立つことを知った上で、隠そうとせずに堂々と街中を歩くだろう」
「――それは、また。なんといいますか。
……色々な意味で凄い御仁ですね」
ジュノーンが深く頷いた。毅然として周囲を寄せ付けない印象のある王だが、彼女は彼女なりに、いろいろと思い悩むことだってあるのだろう。そう考えると、パンタリオンは、急にジュノーンに親近感が沸いてきた。
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